静物画の誕生と、作者たちの工夫 ~隠れた意味と言い訳~

静物画、物を描く絵画! ヴァニタスにおいて、それぞれの物体には意味があったり無かったり。それは批判に対する工夫だったのです。

という訳で、今回のテーマは「静物画」。人や風景を描くのではなく、物体を描く絵画のジャンル。↑みたいな感じの絵ですね~。英語だとstill life

静物画

描かれる物は身の回りの人工物(食器・楽器・本・陶芸・料理など)と、静止した自然物(花・果物・野菜・骨など)。まぁ、基本的に家の中にあるものですよね。

静物画の中でも、さらに細かく言うと「コレクション画、花束、ヴァニタス、朝食画・晩餐画、台所画」などに分けることができます。

コレクション画は自分の集めた芸術作品などを描かせて、自慢するもの。朝食画・晩餐画は豪華な食卓を描くジャンル。もちろん、静物画なので人は描きません。食器・料理・飾りの花など。

「ヴァニタス」ってのは聞き慣れないと思いますが、「それぞれの物には深い意味があるのだ! この静物画にはメッセージが込められている!」みたいなジャンル。フィクション作品の中でも時々出てくるような。詳しいことは後で書きますよ!

静物画の歴史

静物画は、すでにローマ帝国の時代にはありました。ポンペイ遺跡からは大きな静物画が出土しているとのこと。しかし、静物画の文化はローマ帝国の崩壊と共に消えてしまいました。

まー、西洋文化ってのは何でも割とこんな感じですねぇ。ギリシャ・ローマ帝国の時に色々と文化が大発展するのですが、中世暗黒気期に多くが失われてしまいます。同じ芸術の話なら、遠近法とかもそう。

そんなこんなで、静物画も再登場するのはルネサンス以降。中世の絵画は宗教画ばっかりでしたが、ルネサンスによって価値観が変化。「宗教画以外も描いていいだろう!」って話になるわけ。

さらに、↑でも書きましたが遠近法が再発見されたのもルネサンス前後です。遠近法によって平面的ではない写実的でリアリティのある絵が描けるようになったのも、静物画の登場に大きく影響しているでしょう。

純粋な静物画は1600年前後から、ベルギー・オランダ・イタリア・スペインなどで制作され始めます。特に、オランダでは宗教色が弱いものが主流に。

これは社会状況の変化が背景に。その中の1つに、貴族以外も裕福になってきて絵を注文できるようになってきたことがあります。

一般人は堅苦しい宗教画よりも身近な物を描いた静物画などが好きだったわえで。まぁ、なんとなく共感できる話では(笑) そこから静物画は西洋絵画の1ジャンルとして確立し今でも続いています。

ちなみに日本であまり静物画的なジャンルが発達しなかったのは、その土台となる遠近法と陰影法が発展がしなかったせいだと思います。本格的な遠近法・陰影法が西洋から日本に取り入れられるのは明治に入ってからの話。

動かない「物」を書いただけの絵が魅力的なのは遠近法と陰影法によってリアルに表現されているからでは。日本の平面的な絵画は人物・生き物・自然風景などを表現するのは得意ですが、動かない物を書くにはちょっと向いてないような。

ヴァニタスと、作者たちの言い訳

さて、ここからは「ヴァニタス(vanitas)」という静物画のジャンルについて。ヴァニタスとは「空虚」「虚しさ」を意味するラテン語。寓意的・メッセージ性があるのが特徴! 宗教画と静物画の中間と言えるかもしれませんね。

↓こんな感じ

頭蓋骨は「死」、その下の書物は「知識」を暗示しています。また、左の台から出ている煙は「人生の儚さ」を示します。(見にくいかもしれませんが……)

このようにヴァニタスでは、それぞれの物に意味が合って作品全体でメッセージを発しています。

熟した果物は「老化・衰退」、貝殻や泡は「人生の単純さ・空洞・突然の死」、砂時計は「人生の短さ」、時計は「人生の残り時間・避けられない終わり」、花や蝶は「生命の儚さ」、楽器は「刹那的な喜び」などなど……

また、この絵では右側で果物が落下していて、これも「生命の終わり、死」を意味します。このように物自体だけでなく、配置や構図にも意味があるとされます。

ヴァニタス=空虚は、つまり「人生の儚さ、死」を意味している。死を逃れることはできず、富・知識も死後の世界に持ち込むことはできない、そういう考え。

これは中世ヨーロッパの葬儀用の美術品には良く見られたテーマでした。このテーマを静物画に取り入れたのがヴァニタスなのです。1500年代~1600年代にかけて、バロック期のヨーロッパ北部で多く描かれたジャンル。

初期の静物画は、宗教画・歴史画に比べて立場が低いとされました。宗教的な意味がないし、見る人に知識を求めない単純すぎるものだと。

大げさに言えば、「歴史画などは見る人に知識が必要で、賢い上流階級のものだ。比べて静物画はバカでも楽しめる、庶民の絵だ」って感じでしょうかね。

そこで、静物画の中に宗教的なメッセージを組みこんだのがヴァニタス! 「いやいや、静物画にも深い意味があるんです。静物画も立派な絵画ですよ!」という反論なんですね。

まぁ、ただの社会的な言い訳というか「静物画を描きたいけど、バカにされるのは嫌だなぁ。ちょっと意味深な感じにしとくか!」程度のものだったとも言われますが(笑) 作者が本気で宗教的なメッセージを伝えたかったのかというと、微妙なところ。

自分たちのしたいことと、社会的な意見をどう組み合わせるか。いかに批判をかわし、自分たちのやっていることを正当化するか。いつの時代も新しいことを始める人は苦労しますねぇ(笑)

こういった「Aは、実はBを意味している!」「○○は××のメタファーだ!」的なアイディアは今でもよく使われますよね。探検・推理ものが多いでしょうか? ヴァニタスだけが元ネタとは言えませんが、後世にも影響を与えているジャンルなんですよ。

 

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ヴァニタス以外もある!

さて、最後に注意点を。ヴァニタスはメッセージ性のある静物画のジャンルだと書いてきましたが、逆に言えば「メッセージ性のない静物画も普通に存在する」わけで。静物画というとメッセージが隠されていると思ってる人がいるかもしれませんが、そうとも限りません。

単純に美しいから・面白いからという理由で物が描かれている場合もある。変に難しく考えず、基本的にはそのまま見ればいいってことでしょう!

まとめ

・静物画=物体を描く絵画のジャンル。

・すでにローマ帝国の時代にはあった。再登場するのはルネサンス以降。

・純粋な静物画は1600年前後からオランダなどで発展。一般人は堅苦しい宗教画よりも身近な物を描いた静物画などが好きだった。

・初期の静物画は、宗教画や歴史画に比べて立場が低いとされた。それに対する反論がヴァニタス。静物画と宗教画の中間と言えるかも。

・ただし、「静物画を描きたいけど、バカにされるのは嫌だなぁ。ちょっと意味深な感じにしとくか!」ぐらいの言い訳だったとも(笑)

 

 

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