翻訳の難しさと、面白さ ~明治時代の新漢語~

江戸時代までは「社会」なんて無かった!

societyを日本語に訳すと「社会」であり、社会を英語で言うとsociety。当たり前のことだと思うかもしれません。確か高校生で習う単語ですよね、society

しかし、この「社会」という日本語は江戸時代まではありませんでした。明治時代になって、文明開化の中でsocietyという英単語を日本語に訳そうとする中で生まれた日本語なんですよ!

つまり、societyの日本語訳として「社会」という単語が作られたってこと。ある意味でsocietyと社会は対等な関係ではないとも言えるかも。societyが親であり、社会はその子供という見方もできるのでは。

明治時代の新漢語

日本の歴史的には「漢語」というものは中国から日本に入ってきた言葉を指します。これに対して、明治時代に流れ込んできた西洋の言葉を漢字を使って訳したものを「新漢語」と言います。

この新漢語ってのがすごく面白い。↑で紹介したsociety、これを新漢語として訳すのは非常に大変なことだった。

なぜかと言えば、日本語にsocietyに対応する言葉がなかったから。例えば、英語のcatは日本語の猫に対応しています。単語としては違いますが、意味するものはほぼ同じ。catを猫と訳しても問題なし。

しかし、当時の日本語にはsocietyに対応する言葉がありませんでした。まったく新しい未知のアイディアだったわけですよ。それだけ西洋と日本の文化・思想が違ったということ。

今までの日本にない考え方であり、対応する言葉がないものをどう訳すのか……? 想像してみるとすごく難しい。実際に、福沢諭吉は明治 8 年(1875)の『文明論之概略』でsocietyを「人間交際」と訳しているそうです。う~ん、当時の苦労が伝わってきます。

「societyとは……? ははん、何となくは意味が分かってきたぞ。しかし、これをどう訳すべきか……? 他の人にとっても見ただけで意味が伝わりやすくするには、どの漢字を使うべきだろうか……?」こんな感じに悩んだに違いありません!

そんな風に試行錯誤を繰り返し、最終的にsocietyの日本語訳は「社会」として固定されていくわけで。

社会の他にも明治時代には西洋の言葉が多くの言葉が新漢語として訳されました。「哲学」とかもそう。今の我々が当たり前に使っている言葉の一部は、明治の先人たちが苦労の末に生み出した言葉なのです。

いやぁ、単語の日本語訳が決まっている英文でも翻訳(translation)するのって大変なのに、そもそもの単語の日本語訳が決まってない状態で翻訳するとか、想像もしたくないですよ(笑)

今の私たちも英語学習で苦労してますが、比べ物にならないぐらい難しい作業でしょう。当時の人はすごすぎますね。

カタカタ語って、楽してるよね

さて、今まで紹介してきたような新漢語の苦労と比べてみるとカタカナ語ってのは相当に楽してますよね。なにせ、発音をそのままカタカナで写しただけ。日本語としての意味合いは全く表現されていません。

例えば「インターネット」とか。この言葉の起源は一般名詞の「インターネットワーク(internetwork)」で、本来の意味は「ネットワーク間のネットワーク」や「複数のネットワークを相互接続したネットワーク」とのこと。

これを新漢語のように漢字で表現しようとすると、どうすればいいんでしょうか。「相互回路網」とか? 「広域回路網」? 「情報電子回路網」? う~ん、難しい。

「プログラミング」とかも、どうでしょうか。「電子的組み立て」? 「命令打ち込み」? 「電組」? 「機作」?

いや~、今までにない外国語を漢字で日本語にするって難しい。改めて明治の人はすごいことをやりました。

当時の人がカタカナ語だらけの現代日本を見たら「なんだこれは!? 発音をそのまま書いただけじゃないか! ちゃんと日本語にしろよ! 俺たちは頑張ったんだぞ!」なんて思うのかもしれません(笑)

でもまぁ、今はネットとかを通じてすごい勢いで外国語が日本に入ってきてますからねぇ。いちいち漢字に訳していたら間に合いません。これも時代の違いと言えるかも。

まとめ

・明治時代に流れ込んできた西洋の言葉を、漢字を使って訳したものを「新漢語」と言う。「社会」など。

・対応する言葉がないものをどう訳すのか……? 想像してみるとすごく難しい。明治の人はがんばった!

・新漢語の苦労と比べてみるとカタカナ語は相当に楽してる(笑)